こんにちは、無藤隆です。今月のテーマは、「保育環境の質とは何か」です。「保育環境」について学びましょう。

■保育の環境とは広く言えば、その園の中の保育室や庭やそこに置かれているもの、またそこで保育を行う保育者、またその営みすべてを指します。その保育環境の質を考えるとは，子どもにとってその環境とのやりとりこそが活動の質を高め、しっかりとした学びを可能にするものだからです。

■その環境をとらえる尺度として国際的に最も広く使われているのが、ECERS（読み：エカーズ）（保育環境評価スケール）です。日本では同志社女子大学の埋橋（うずはし）教授が日本版を作って、利用のための研修もしています。

　ECERS-R（改訂版）は、7つの下位尺度からなります。各尺度に数項目が入っています。その項目には10程度の指標があり、指標毎に「はい」「いいえ」を判断し、それが項目毎の「不適切」から「とてもよい」までの4 段階にまとめられます。

　下位尺度は、「空間と家具」、「個人的な日常のケア」、「言葉と思考力」、「活動」、「相互関係」、「保育の構造」、「保護者と保育者」とに分かれます。例えば、「空間と家具」は、室内空間、日常のケア・遊び・学びのための家具、くつろぎと安らぎのための家具、遊びのための空間、ひとりまたはふたりのための空間、子どもに関係する展示、粗大運動（身体を動かす）遊びの空間、粗大運動遊びのための設備・備品、からなります。各々さらに細かい指標で点検するわけです。

■項目は全部で43あります。それに対応して、43の場面を取り出して、状況を把握します。子どもの側のとらえ方として、子どもの保護、社会情緒的発達、知的発達についての保障を考えます。それに役立つかどうかで環境側の指標をとらえるわけです。

　この43項目の内、37の項目は直接に観察して判断します。そこではチェックポイント（指標）が決まっており、そのチェックの結果について、1点（不適切）から7点（とてもよい）までの評定を行います。保育者の行動や発話とともに、設備・備品・遊具・教材などの物的環境にも注目します。その観察は通常3時間程度を要するようです。

■例えば、積み木であれば、遊べる積み木がほとんどないのなら「不適切」、二人の子どもが同時に別々に遊べるなら「最低限」、3人以上で専用スペースがありなどで「よい」となり、子どもが出し入れできる棚があり、さらに戸外でも遊べるなら「とてもよい」と評定します。

　なお、さらに例えば、「子ども同士のコミュニケーションを援助するような保育者のかかわりがある」（コミュニケーションの指標）があって、実際には積み木遊びは保育として意味を持ちます。

■もちろん、この尺度は主観が入りますが、それは評価者の訓練を行うことにより信頼性を上げていきます。欧米ではこの尺度により保育の質をとらえ、国によってはこの点数がある程度以上高いことを，質の評価の一つに入れているところもあります。

　もちろん、この尺度ですべてがとらえられるというわけではありません。特に子ども同士のやりとりや子どもと保育者の関わりなどは十分にとらえているとは言えませんが、特に物の環境とそこに保育者がどう関わるかなどはかなり上手く数値化しています。

いかがでしたか？次回のテーマは、「表現」を予定しています。それではまた来月。

［参考文献］埋橋玲子(2013)「ECERS（保育環境評価スケール）にみる保育の質」『子ども学』第1号、29-53.