こんにちは、無藤隆です。今月のテーマは、「いざこざから学ぶ」です。自己調整する力について学びましょう。

■人間関係の領域について、幼稚園教育要領には次のような注記があります。「集団の生活を通して，幼児が人とのかかわりを深め，規範意識の芽生えが培われることを考慮し，幼児が教師との信頼関係に支えられて自己を発揮する中で，互いに思いを主張し，折り合いを付ける体験をし，きまりの必要性などに気付き，自分の気持ちを調整する力が育つようにすること。」
これは子どもがいざこざなどから学ぶことが大きいということを意味していて、もちろん保育所の子どもの生活でもしばしば見られるところです。

■たとえば、小さい子どもが、まだ園に馴れていない間は、遊び出すどころではなく、安心していられて、保育士のそばにいたり、保育士に見守られながら、次第にそこにいてよいのだとか、好きなことをやってみてもよいのだと感じるようになります。そこで、少しずつ自分のやってみたいことを見つけて、遊び出します。それを「自己を発揮する」と呼んでいるのです。
そういったところで、ほかの子どもが積み木で遊んでいる様子を目にしたとしましょう。自分も遊びたいと思います。でも、積み木をほかの子どもが使っているからあきらめるかもしれませんが、でも、どうしてもやってみたいなら、そばに行って、床に置いてあった積み木を手にとって、自分も相手の子どもと似たような遊びを始めるかもしれません。

■でも、相手の子どももその積み木をほしいとなったら、そこで衝突が起こります。おのおのが積み木をいくつも使って、積みたいと思って、積み木を自分一人で使おうとするかもしれません。そうなると、互いに譲らず、いざこざになります。
そこで、相手に譲ってしまったら、自分は積み木で遊べなくなります。それは自己発揮につながりません。といって、勝手に全部を一人で使っていたら、今度は相手の子どもが積み木で遊べないのです。最初はそれが分からず、力づくで積み木を独占してしまうかもしれません。相手の子どもも力を振るって取ろうとすると、けんかにもなることでしょう。
そこに保育士が関わったり、他の子どもが入ってきたりして、何とか分けようとするようになるでしょう。相手が泣いてしまい、仕方なく、分けるなどもありそうです。

■そこでどう分けるのか。それが問題です。少しだけ相手に与えるというのもあるでしょうが、いずれそれだと相手が不満でうまくいかなくなるでしょう。そうすると、「半分」という解決法が出てきたり、ジャンケンで決めるのも使われることもあります。交代で使うというのも遊具ならありそうです。
一緒に遊ぼうと提案するのは年齢が上がってくれば出てきて良さそうです。独占できるけれど少しというのと、二人で使うのだけれどたくさん、というのだと、後のたくさん使える方がいいと思えたり、さらに一緒に使うように工夫していく楽しさが見つかると、そうなっていきます。

■半分にするとか、じゃんけんとか、交代、一緒、というのはその遊びの中で見いだされ使われる「決まり」です。遊びが変われば、また違う決まりが作られ、用いられることでしょう。そういった決まりのことを言い換えると、「ルール」であり、守るべきことという意味では「規範」と呼ぶこともあります。
互いに折り合いをつけて、何とかけんかしないで、できれば仲良く遊ぶために、二人が多少不満でも、でも二人がともにもっと楽しくなれるようにします。そのために役立つのがそういった決まりなのです。

■とはいえ、不満も残ることもあるでしょう。やはり一人で全部使いたいとか、ずっと使っていたいと感じることもあります。そういった自分の気持ちの整理が必要になることも増えていくでしょう。そこで必要になる子どもの力を自分の気持ちを調整する力と呼んでいます。この自己調整力こそ、友達と遊ぶ中で育っていくものであり、また保育士がその遊びに加わりつつ育てていくべき中核となる力なのです。

いかがでしたか？次回のテーマは、「保育の計画」を予定しています。それではまた来月。