保育士のひきだし
2020.10.05
保育業界で進むICT化!メリットや今後の課題・ICTシステムの導入費用を紹介
近年、保育現場におけるICT化が推進されています。保育士の業務負担を軽減して保育の質の向上を図るとともに、労働環境を整えて保育士不足の解消を図ることなどが期待されているICTシステム。保育園への導入によって、具体的には何ができるようになり、何が変わるのでしょうか。
そこで今回は、ICTシステムの機能や導入するメリットについてわかりやすく解説します。さらに、システムの導入費用や、ICT化によって生じる今後の課題についても詳しく迫っていきましょう。
ICTとは
冒頭でもお伝えした通り、ここ数年広まりつつある保育現場のICT化。厚生労働省でも、「保育所等における業務効率化推進事業」を打ち出し、ICTシステムを導入する保育園に対して補助金を交付するなど、ICT導入を推進しています。
ところで、「ICT」とはいったい何を意味する言葉なのでしょうか。まずは ICTについての基礎知識をしっかりと深めていきましょう。
ICT=「Information and Communication Technology」の略
ICTは、「Information and Communication Technology」の略で、「情報通信技術」や「情報伝達技術」などを意味する言葉です。よく似た言葉に「IT」がありますが、こちらは「Information Technology(情報技術)」の略。コンピュータやインターネットなどを総称する言葉として用いられています。
意味するところはほぼ同じですが、ITに「コミュニケーション(Communication)」を付け加えているのがICTの大きな特徴。つまり、ITはコンピュータ関連の情報技術そのものを指し、ICTはその情報技術を人が伝達したり活用したりすること、またはその活用方法を指す言葉として定義されています。
保育現場のITC化とは
保育現場のICT化とは、おもにインターネットを活用した業務支援システム(ICTシステム)を保育園に導入することを意味します。パソコン・タブレット・スマートフォンなどを使って、保育記録の入力や書類作成、児童の登降園管理、各種情報の閲覧・共有などを行うことで、保育士の業務の負担を大幅に軽減させることがおもな目的です。
近年、多くのIT企業によって保育園用のICTシステムが開発および提供されており、国や各自治体でも、補助金の交付により保育園へのICTシステム導入を推進しています。
【参考】
厚生労働省「2020(令和2)年度 保育関係予算概算要求の概要」
厚生労働省「保育所等における業務効率化推進事業の実施について」
ICTを活用してできる機能
ICTについての知識を深めたところで、ここからは、ICTシステムを活用してできるおもな機能を具体的に確認していきましょう。
園児情報管理機能
各園児のさまざまな情報をパソコンやタブレット、スマートフォンで簡単に登録及び管理できます。
- 住所・氏名などの基本情報
- 家族の連絡先・メールアドレス
- アレルギーの有無
- 身体測定の結果
- 出生時記録
- かかりつけ医
- 既往歴
- 成長記録
- 生活記録、など
登降園管理
保護者の方に、パソコンやタブレットなどで操作してもらったり、所定のQRコードをかざしてもらったりすることで、自動で登降園管理することが可能となります。電話によるやりとりや紙に記録する作業が不要となるので、朝の混雑の軽減につながります。また、1ヶ月分のデータを一括で出力することもできるので、出欠管理も簡単になります。
書類作成の簡素化
パソコンやタブレットなどを使って、保育日誌・年間指導計画・月案・週案・日案などの書類を簡単に作成・管理が可能となります。出欠情報や行事の日程など、他機能で記録したデータが全て連動するので作業効率の向上が期待できます。また、さまざまな書類をペーパーレス管理できるので、ファイルを出し入れする手間も省けます。
職員同士の情報共有
パソコンやタブレットなどを使って、保護者の方からの連絡事項やヒヤリハットなどの情報を簡単に入力・管理が可能となります。職員同士の情報共有や連携を強化でき、早急な対応や対策につなげられます。
保護者への連絡を一括管理
一斉メール配信・WEB掲示版・連絡帳機能などを用いて、保護者の方へのさまざまな連絡事項をまとめて管理することが可能となります。プリントなど作って印刷する手間が省けるうえ、伝達もれも防げます。
保育園ICT化によるメリット
では、ICTシステムを導入することで、保育現場にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。続いては、厚生労働省および経済産業省の資料と現在保育現場が抱えている課題をもとに、ICT化によるメリットを確認していきましょう。
保育の質の向上
書類作成をはじめとするさまざまな業務を効率化し、労働環境を整えることで、保育の質の向上が期待できます。
下記表は、厚生労働省の調査結果を独自にまとめたもの。
【ICT の導入有無による職員1人当たりの1ヵ月間の書類作成平均時間の差異】
おもな作成書類 |
ICT導入/有 |
ICT導入/無 |
月・期指導計画 |
2.1時間 |
2.5時間 |
短期的な指導計画・週案 |
1.8時間 |
1.6時間 |
クラス記録 |
3.0時間 |
3.2時間 |
個々の子どもに関する記録 |
2.3時間 |
4.5時間 |
連絡帳 |
3.5時間 |
6.1時間 |
クラスだより |
1.7時間 |
1.8時間 |
【参考】厚生労働省「令和元年度 保育士の業務の負担軽減に関する調査研究」
この表から、ICT導入が書類作成時間の削減に一定の効果をもたらしていることがわかります。業務が効率化し、忙しさから解放されることは、子どもたちと触れ合い、一人ひとりと濃密に向き合う時間を増やすことにもつながっていくことでしょう。
保育士不足の解消効果も期待
ICT導入による業務の効率化で保育士の負担が軽減されれば、昨今問題となっている保育士不足の解消も期待できます。ちなみに、保育士不足を引き起こしているおもな要因のひとつとされているのが、仕事量の多さです。
東京都の調査でも、対象となった現役保育士のうち、49.0%の方が職場への改善希望点に「事務・雑務の軽減」を挙げ、さらに、退職を意向している保育士のうち、61.9%の方が退職意向理由として「仕事量が多い」を挙げている旨が報告されています。
保育士の仕事には、日中の保育に加えて、書類作成や制作、職員会議などさまざまなものがあり、日々休む間もなく業務に追われているのが現状です。さらに、イベントシーズンには、残業は当たり前、休日も返上して準備に追われることも。ICT導入が保育士の負担を軽減し、労働環境の改善とともに、保育士として働く意欲の向上へとつながっていくことが期待されます。
保護者の方の利便性も向上
スマートフォンなどを利用して保育園と次のようなやり取りができるので、保護者の方にとっても利便性が向上します。
- スマートフォンのアプリから遅刻・欠席の連絡ができる
- スマートフォンから延長保育の予約も可能
- 災害時や不審者情報などの緊急連絡を迅速に受け取れる、など
なお、アプリから欠席などの連絡ができることで、保育士は朝の忙しい時間帯に電話対応に追われることがなくなり、また、緊急時には一斉メールができることで、保育士は保護者一人ひとりへの連絡が不要に。
ICT導入によって保護者とのコミュニケーションが楽になるため、保護者の方にとってのメリットは、そのまま保育士にとってのメリットにもつながります。
【参考】
厚生労働省「令和元年度 保育士の業務の負担軽減に関する調査研究」
東京都福祉保健局「平成30年度東京都保育士実態調査報告書/Ⅱ.調査結果の概要」
東京都福祉保健局「平成30年度東京都保育士実態調査報告書/Ⅲ.調査結果詳細」
経済産業省「保育現場のICT 化・自治体手続等標準化検討会 報告書」
システム導入費用と今後の課題
保育現場におけるICT化は、業務を効率化し、保育現場にさまざまなメリットをもたらしますが、導入前に押さえておきたい問題もあります。最後に、ICTシステムを導入する際に必要となる費用と今後の課題について確認していきましょう。
システム開発はせず月額利用が可能
各メーカーによって違いはあるものの、パソコンやタブレットなどの機器、インターネット接続など、保育園側で環境が整っていれば、ICTシステムの初期費用はかからない場合がほとんどです。
また、システムに保育園独自のカスタマイズを加えるような場合を除き、システム開発費も不要。基本的には、システムごとに定められた月額料金が発生します。おもなICTシステムと導入費用は下記を参照してください。
おもなICTシステム |
初期費用 |
月額費用 |
CODMON(コドモン) |
0円~ ※パソコンなどの機材やインターネット環境が整備され、地震で導入作業を行う場合は0円 |
5,000円~ |
kidsly(キッズリー) |
0円 |
0円 ※有料機能あり10,000円/月~ |
kids plus(キッズプラス) |
0円 |
2,000円~ ※園児の人数、オプション機能の有無により変動 |
Hoisys(ホイシス) |
15,000~80,000円 ※園児の人数により変動 |
5,000~15,000円 ※園児の人数により変動 |
WEL-KIDS(ウェルキッズ)
|
0円 |
5,000円~ ※利用機能により変動 |
なお、すでにお話した通り、保育園のICT導入化に対して国や各自治体では補助金制度が設けられています。
おもな補助金制度は次の通りです。
- 厚生労働省の補助基準額…1施設当たり100万円
- 東京都の補助基準額…1施設あたり200万円、など
補助金制度をうまく活用すれば、負担を抑えてICTシステムを導入することも可能。どのシステムを使用するかはもちろん、補助金制度にも注目してみてください。
【参考】
職員・保護者への説明や理解が必要
保育現場にICT化を導入するためには、システムを使用する職員と保護者の方に理解を得る必要があります。しかし、職員の中には、「パソコンの操作方法がわからない」「どう使えばよいかわからない」などとICTに対する抵抗感や苦手感を持ってしまう方も。また、欠席の連絡などは保護者の方にスマートフォンを操作してもらうため、場合によってはうまく使いこなせないこともあります。
ICTの活用に対して、「難しそう」「かえって大変そう」というイメージが先行してしまい、理解を得にくくなってしまうケースがあるのも大きな課題のひとつです。
職場環境の整備
ICTを活用するための、次のような環境整備が課題となっている施設も多いようです。
インターネット環境
ICTを導入するためには、インターネットの接続環境が必要不可欠です。これから整備するとなると、インターネット回線の申込や手続きが必要に。さらなる費用と手間がかかってしまいます。
パソコンの設置台数
ICTを導入しても、パソコン端末が少ないと作業できる職員が限られてしまい、かえって効率が悪くなってしまうことも。そのため、ICTを活用して作業効率を図るためには、職員数に見合った台数のパソコンが必要となります。
パソコンスペースの確保
パソコン台数が増えれば自ずと設置スペースも必要になります。ある程度広いスペースを確保できないと、ICTの導入は難しくなってしまいます。
ICT化導入による一時的な業務負荷が発生
ICT導入の前後には、通常業務に加えて次のような一時的な業務負荷が発生する点もしっかりと押えておかなければならない問題です。
- 導入時にはICTへの切り替え作業(データの準備・入力・管理など)が必要となる
- 操作を覚え、慣れる必要がある
- パソコン操作が苦手な職員へ指導するなどの付随業務が発生する、など
ただでさえ業務量が多い保育士。通常業務と並行してICT化にともなう対応を行うことは、一時的とはいえかなりの負担となってしまう場合も。通常業務を回しながら、ICTの運用をうまく開始するためにはどうするべきか、事前にしっかりと取り決めておく必要があります。
【参考】宮城県「保育施設における ICT 等利活用状況調査結果」
まとめ
保育現場のICT化は今後も広まっていくことでしょう。導入費用や職場環境、操作方法などに対する課題はいくつかあるものの、ICT化して業務を効率化できれば、保育士の負担の軽減という大きなメリットが得られます。業務量を減らせれば子どもに向き合う時間も増え、保育の質の向上へとつながっていくのではないでしょうか。
ぜひこの機会に、保育現場のICT化について正しい知識を身につけ、理解を深めてみてください。
【参考】
厚生労働省「2020(令和2)年度 保育関係予算概算要求の概要」
東京都福祉保健局「保育所等におけるICT化推進事業実施要綱」