シリーズ　身体障がいのある子どもたちと保育園生活　第2回（全12回）

執筆：株式会社Halu（乳幼児向けインクルーシブブランド IKOU運営）

対象：保育士、幼稚園教諭、保護者

身体障がいのある子どもたちの生活環境づくりや日常動作のサポートについてご紹介する連載の第２回目。今回は、脳性まひという障がいを持つ5さいの男の子のエピソードをご紹介します。

語り手：こども園に通っている５さい（脳性まひ）の男の子のママ

三男には生まれつきの脳性まひによる運動障がいがあり、右手以外の手足のコントロールがうまくできません。そのため、障がいのある子どもたちの身体的・認知的な機能を伸ばすために個別の通所支援を行う児童発達支援事業所という施設に、1歳から通ってサポートを受けていました。
就学前の障がいのある子どもたちの中には、児童発達支援事業所のみに通う子もいれば、保育園と並行して通う子、保育園のみに通う子など、それぞれの子どもの発達や家庭の状況に合わせた選択をしています。わが家の場合、私自身が出産前に専門職をしていたため、仕事復帰をしたいという気持ちが強く、また、健常児との関わりが息子の更なる成長につながるのではないかという想いもあり、並行してこども園への入園も希望していました。

念願が叶い、年少になる頃には、無事にこども園への入園が決定しましたが、健常児との運動発達の違いは明らかで、さまざまな場面でお友達と一緒に過ごすための環境を整える工夫が必要でした。そこで、児童福祉法に基づく障害児通所支援の一貫である保育所等訪問支援※１を活用し、日常生活の一連の動作のリハビリを専門とする作業療法士にこども園を訪問してもらうことにしました。そして、集団生活の中で安心して過ごすことができるようにと、担任の先生とともに検討を重ねながらサポート体制を整えていきました。
その中の一つが、トイレトレーニングです。息子は体幹・左手・両足にまひがあり、特に両足の筋肉が緊張しやすいため足をうまく開くことができません。自力で便座に座ることはできないし、ズボンの着脱にもサポートが必要です。さらには、息子はトイレにさえ踏み込んだことがないため、トイレに入ろうとするだけで不安で泣いてしまうといった状態でした。
そこで、担任の先生と作業療法士の先生は、お友達の様子を見て真似をすることで、息子の不安をなくしていき、楽しくトイレトレーニングを進める方法を考えてくれました。子どもたちがトイレに行く際のお着替えに使う椅子の隣に、息子専用に作った身体を支える機能を備えた牛乳パック椅子をセッティングしてくれたのです。

三兄弟の末っ子でいつでも兄たちの真似をしたがる息子にとって、「みんなと一緒」であることは憧れであり、とても誇らしいことであり、何より嬉しいことです。そんな息子の気持ちに寄り添い、ほんの少しの工夫で他の子どもたちと同じ環境でトイレトレーニングを開始してくれたことは、私たち家族にとって本当に嬉しい出来事でした。

息子はようやく床の上でのおすわりが一人でできるようになったところで、自力で歩くことはできませんが、「歩行器」という身体を支えて歩くことをサポートしてくれる道具を使うことで、他の子どもたちとともにグランドを駆け抜けたり、公園までお散歩をしたりと、毎日の生活を思いっきり楽しんでいます。

こども園入園をきっかけに息子の世界は大きく広がり、息子のために日々尽力してくださる先生方に感謝の気持ちでいっぱいで、その思いを伝えたことがあります。その時に、先生は笑顔でこんな返事をくれたのです。

「お母さん！障がいがあってもなくても、できないことがあればどのように工夫すればできるようになるかを考えるのは、どんな子でも同じですよ。」

その言葉によって、多くのサポートが必要な障がい児を預けることに対してどこか心の奥底にあった後ろめたさや不安感は、一気にかき消されました。
これからも、先生方に感謝しながら、成長にともなって新たな問題が生じた時にはその都度相談し、一緒に解決していけばいいんだという前向きな気持ちで、日々を過ごしています。

※保育所等訪問支援
平成24年4月1日に改正児童福祉法により創設・施行された支援。支援が必要なお子さまが通っている保育園や幼稚園、学校等に専門知識を持つスタッフが訪問し、集団生活に適応するため、お子さまへの直接支援や、園・学校の先生や施設に間接支援を提供するサービス。